三菱ミラージュ |
何がダメって、取りあえず試乗してみると解ります。自動車評論家達は、久々の三菱のニューカー、そして流行りのコンパクトカーと言うことで、かなりオブラートに包んだ書き方で苦労していますが、とにかく車として質感が低く安っぽい。乗り心地はふなふなコトコトで頼りなく、何より燃費重視の軽量化のためか、終始室内にゴーっと言う音が響きます。
こんな車過去にも乗ったことがあります。そう。スズキの軽自動車ですね。スズキの軽と言えば、ダイハツやホンダと比べて、明らかにユーザー軽視の割り切りで、安っぽく質感が低いものでしたが、それでも近年の日本国内での軽人気で、以前に比べれば遥かにマシになってきました。でもこのミラージュに乗っていると5〜10年前のスズキの軽を思い出すのです。
今や日本の車の販売の主流は、軽自動車とコンパクトカーです。そして軽自動車には維持費という点で、普通車に比べて圧倒的なアドバンテージがあるわけです。それでも今までは、筆者のように軽自動車の質感の低さや、衝突安全性への不安から普通車を選ぶ人も多かったです。
ですが、軽自動車がセカンドカーからファーストカーに代わり、家に軽自動車しか無いという家庭が増えて行くにつれ、軽自動車の質感、安全性は大きく上がりました(同時に価格も大きく上がりましたが)。となるとコンパクトカーは当然軽自動車より優れた面を見せなければ、選ぶべき理由が無くなってしまいます。フィットやスイフト、アクア、デミオ辺りにはそれぞれ明確なアドバンテージがあります。現行のマーチ、ヴィッツあたりは若干厳しいでしょうか?それでも「トヨタ」「日産」と言う看板への信頼感があります。
ではリコール隠し問題で会社が大きく傾いた三菱は、何を売りにしたのでしょう。それは、燃費と価格です。特に大きな発明、飛び道具を使うことなく、今までの技術の研鑽でバツグンの燃費と低価格を実現する。今の時代を考えれば方向性としては間違っていません。これで最低限、先代にあたるコルト並みのクオリティを維持できていれば、大変期待の出来るニューカーに仕上がったでしょう。
でも出来上がった車は上記したとおりです。飛び道具を使わず低燃費を実現する為には、車体の軽量化だと、削れるところはみな削り、削りまくった挙げ句、数年前の軽自動車のような、終始ゴーゴー響く安っぽい鉄の箱のような車になってしまいました。また低価格を実現する為に、全車タイ生産とし、その結果、プレスの限界かデザイン面でなんとも生ぬるいシャープさのない車になってしまいました。
しかも発表された価格は、売れ筋グレードで比べると、抜群に安いと言うほどのモノではなく、ディーラーの値引き次第では、簡単に逆転できるレベル程度に収まっています。つまりタイ生産で安く上がった分は、ユーザーに還元されずに、メーカーのフトコロに入るという、マーチと全く同じ仕組みになっているわけです。
ミラージュはグローバルカーとして世界中で売られるわけですが、三菱がまずいのは、これが今の日本車、今の三菱車の標準だと思われる点です。日本や先進国では当然、その他の途上国でも、韓国車や先進国のセカンドブランド(ルノーダチアやVWセアト)と比べられて、勝てそうな気がしません。
ミラージュは軽自動車を除けば、三菱のエントリーカーなわけです。ここから三菱車の世界が始まり、広がっていくのです。なのにこんな出来のミラージュを買って、また次三菱車に乗ろうと思うでしょうか(もっとも今の三菱にはステップアップしていく車自体が無いですが)?筆者は結構なミツビシャーで、三菱車にも多く乗ってきました。今でも国産メーカーで三菱が一番好きです。でもそんなミツビシャーでもこのミラージュを見たらこう言わずにいられません。「三菱終わったな」と。
思えば先代に当たるコルトは、出た時期が悪く、その後の会社の低迷でモデルチェンジもされませんでした。でも少なくとも、デザイン、質感、車の出来は、身びいきと言われようが、悪い車ではありませんでした。未だに外観デザインも古く見えませんし、初期型のフルチョイスシステムの頃の内装の質感も悪くありません。
でも新型ミラージュは、タイ生産の工場レベルの問題からか、デザイン画やモックアップのシャープなラインは消え失せ、ポリカーボーネートのラジコンカーのようなだるい雰囲気になってしまいました。これはフルカラードバンパーに拘ったせいでより強調されてしまい、むしろモールなどに黒プラッチック部分を入れた方がしまったのでは?と思わされます。
いや確かに今の時代、車に品質感や味わいなど求めず、道具として安くて燃費が良い車を求める人も居るでしょう。典型的車の白物家電化の1台がこの車だと言えます。でもそんな車に興味が無い人は普通軽自動車を買うでしょう?軽自動車とミラージュを比べて、唯一負けない点は5人乗れると言うことだけです。全くこの車には存在理由が有りません。こんな車があっても、三菱は自分の首を絞めるだけです。
人は良いモノに触れ続けていると、そのモノにたいして興味が無くても、悪いものと良いモノの区別がつくようになります。国産車に乗り続けてきた日本人、普通車に乗り続けてきた日本人。そんな人にこんな車が売れるわけがありません。いや、本当に三菱好きとしては心苦しいですが、こんな車は売れてはいけないのです。
昔はごちそうだったお寿司やウナギ。今ではハレの日でなくても普通の食事として食べられます。でも、はたして昔の1年に1.2回しか食べられなかった時と同じ味でしょうか?国産のウナギを職人がしっかりと作った昔のウナギと、中国産のレンジでチンするウナギ。一見同じモノに見えても、その味は全く別物なはずです。
でも、今の人たちの頭に浮かぶウナギの味は、レンジでチンのウナギの味なのです。職人が作った味がどんなに美味しくても、それを知らないのですから、ウナギの価格が高騰して食べられなくなっても、そんなに惜しいと思わないでしょう。車でも同じ事が言えます。こんなレベルが日本車だと思う人々が増えてきたら、途上国の車と比べて区別がつくとは思えません。
日本車が欧米に追いつけ追い越せで頑張ってきた成果。それが世界中で、日本車というブランドとして評価されていたわけです。でも日本のメーカー自らが、こんな見切り商品のような、安かろう悪かろうな車を出していては、日本車で有る必要は無くなってきます。本当に三菱はこんな車を出していてはいけません。こんな車で生き残っていこうと考えてるのだとしたら、潔く乗用車の生産からは撤退してもらいたいぐらいです。
三菱好きとして、こんなにガッカリした車はありません。
http://autos.yahoo.co.jp/ncar/catalog/mitsubishi/mirage/F003/