スバル5代目レガシィ |
ショールームに置かれているレガシィ。それがアウトバックだったせいも有りますが確かにデカイ。発表前にネット上でささやかれていた否定的意見の多くは、バカでかいサイズとレガシィらしくないデザインでした。いざ実車を前にして筆者もその意見に同感で、これはスバルやばいんじゃないの?と思いました。
その思いは外に置いてあった試乗車B4でも全く変わらず。アウトバックよりいくらか低いモノの、それでも車高は先代プラス8センチ。アウトバックに関してはルーフレールも無いのに1600ミリオーバーで、都市部の立体駐車場に入れなくなりました(先代は1535ミリでギリギリ)。ミニバンならともかく、しかもサイズ的に横にも長さでもたいして制約のあるクラスでも無いのに、なぜこんなに車高を高くしたかったんでしょうか?
これがコンパクトや軽自動車ならわかります。限られた寸法内で人間をキチンと4.5人座らせるには、高さに逃げるしか有りませんから。でもレガシィにはそんな制約は無いわけです。しかも今回のモデルチェンジでは、今まで以上にサイズに対する自制が感じられません。しかもスバルは水平対向エンジンのメリットとしてコンパクトさをうたってきました。だったら高さに逃げなくても十分に広い室内は構築出来たはずです。
水平対向エンジンのメリットには低重心と言うモノも有ります。しかしレガシィのエンジンルームを見てみると、確かにエンジン自体は低い位置にあります。でもそのエンジンからボンネットフードまで、なんとも空虚な空間が広がっています。エクシーガが発表された時にもふれましたが、高い車高とデザインの整合性を取る為に、低重心のエンジンの上に無駄なかさ上げをして重いボンネットを(もはやアルミでは有りません)乗っけてるわけです。
と言う具合に、レガシィの高い車高からはメリットがあまり感じられません。確かに室内空間は十分に広いのですが、レガシィのオーナーはレガシィの室内には適度な包まれ感のようなモノを求めていて、この着座位置の高いミニバンのようなモノを求めているとは思えません。もちろんメーカー側もそれは理解しているようで、こんな室内空間にも関わらず内装色は1グレードを除き黒内装のみ(B4)。ガバガバになったのを必死に色でタイトな感じを出そうとしてるのは明らかです。
質感自体は、元々スバル車の質感がそれほど高くは無かったことから、それなりに向上しています。ただ木目調パネルとアルミ風フィニッシャーのバランスはそれほど良いとは思いません。黒内装でシックな雰囲気を狙ってるのでしょうが、なんだかガチャガチャして落ち着きに欠けます。
操作系ではサイドブレーキが電磁ロック式になりましたが、その場所が運転席右に来ているのに軽い違和感を感じます。エンジンスタートボタンと近づけたかったのでしょうか?でもエンジン掛けてすぐにスタートと言うよりは、左側ATシフトレバー近辺にまとめて、ATセレクト→サイドブレーキ解除という方が使い勝手としてよいのでは無いでしょうか(もっともアクセルを踏めば自動で解除されるのですが)?
同じくSIドライブのダイヤルにも疑問符がつきます。ダイヤル形状をしているにもかかわらず、ダイヤルで操作するのは「S」と「S#」のみ。「I」は押さないとそのモードに入らないというのはどうでしょう?別にどのモードに入れても危険な状況とかになるわけではないのに、操作ロジックを変えている意味がわかりません。だったら素直にスイッチ3つの方がわかりやすいです。
セールスの方が試乗を勧めてくれたので、ほいほい試乗に出向きます。試乗車はB4の2.5iLパッケージ。乗り出して最初に感じるのは、やはり視点が高いこと。今までのレガシィに比べて、明らかに最新の車になった感が有ります。この視点がダメな人や、今までのレガシィの視点が好きな人には、それだけで納得できないのではないでしょうか。
また逆に、今時の車とは思えないほどその視界にボンネットが入ってきます。ボンネットが見えると言う事は、車幅感覚を掴む上では良い点だと思いますが、そもそもかさ上げボンネットなので視界に入るわけです。水平対向エンジン車の視界としてはがっかりな感じです。
運転しての印象は、乗り込んだ時のドアの開閉音の重厚さからも解るように、完全に高級車。見事に静かです。目地段差のいなし方もトントンと固めながらも不快じゃない仕上がり。そう言う点ではスバルの主張通り、これでベースグレード220万円からと言うのは、排気量2.5Lの4WD車としては確かに安いです。
この車がレガシィじゃなくて、まったくの新型車ならお買い得感で引っ張っていく事も出来るでしょうけど、残念ながらレガシィには今まで築き上げてきたイメージがあるわけです。多くのレガシィユーザーは、こんな排気量も、こんなサイズも、こんな腰高なデザインも望んでいないと思うんです。
レガシィを見ていて思うのは、スカイラインと同じだなと言う事。スカイラインはその歴史上、頭の固い多くのスカイラインマニアに振り回されてきたわけです。でもV35からそれらのユーザーは切り捨て、販売の中心を北米インフィニティブランドに置いたわけです。この変更は基本的には成功し、北米で売れたおかげで、次のV36スカイラインはとてもお金の掛けられた車になりました。車としての出来は、マニアユーザーを切り捨てる前のR34と、切り捨てた後のV36では、圧倒的に切り捨てた後の方が良い車に仕上がっていると思います。
でも、V36スカイライン。もはや大きすぎて一般庶民が積極的に欲しがる車じゃ無くなってしまいました。いくら車の出来が良くても、このサイズ、この排気量では日本人はなかなか買わないわけです。レガシィも同じですよね。いや、レガシィは日本ではそれなりに売れていたのですから、スカイラインよりユーザーは可哀想です。レガシィのユーザーがスカイラインユーザーほど頭が固いとも思えません。なのにスバルはレガシィユーザーを切り捨てようとしてるのですから。
スカイラインは北米で成功したからこそ救いが有ります。スバルのブランド力でレガシィは北米で成功できるのでしょうか?日本でそっぽを向かれ、北米でもそっぽを向かれたら、車の出来が良いだけになんとももったいなく思います。それどころか基本レガシィのみで持っているスバルが、このレガシィを外したらどうなるのでしょう?なんとも不安にさせるレガシィのモデルチェンジでした。インプレッサと新型レガシィの間に、もう一車種必要で。それこそがスバルユーザーの求めている車な気がします。