日産3代目ティアナ |
かってはこのアッパーミドルクラスが、世のお父さん達の上がりの車で、カローラやサニーで始まったカーライフをマーク2やスカイライン/ローレルで終えると言うパターンが多かったわけです。未だに81マーク2あたりが多く走っているのも、そうやって上がりだったお父さん達が長生きしている証明ですから、健康で羨ましい限りです。ところが現在の日本ではセダンは絶滅危惧種。猫も杓子もハイト軽やミニバンばかりです。挙げ句は若い頃あれほどセダンに親しんだお父さん達も、いつ来るかわかりもしない孫のために、上がりの車にミニバンを買う失態です(笑)。
とはいえ、世界的にはこのクラスのセダンはまだまだ花形。日本市場専用では開発できないけど、グローバルセダンとして開発したモノを、おこぼれで日本に展開することは出来るわけで、3代目ティアナもそんな残念な成り立ちの車です。月間販売台数の予想も少なく、メーカーにもまるで売る気は有りませんから、そもそも展示車がほとんどありません。それでもわざわざ県庁所在地の本店ディーラーまで行ってみると、たった1台の展示車は試乗車も兼ねていましたので、勧められるままに乗せてもらうことにしました。
乗る前は海外市場のお仕着せで、およそ日本人の好みには合致しないだろうと思っていたのですが、いやこれがバカに出来ない仕上がりなんですよ。何よりまずアッパーミドルクラスに相応しい乗り心地。日産車と言えば、高級車といえどもフーガ、スカイラインを筆頭に、どちらかというと足回りからの情報が真正直に伝わってくるのが特徴でした。初代ティアナもその例に漏れることなく、モダンリビングなデザインとは若干ちぐはぐな乗り味に感じたものです。
ところがこの3代目ティアナは高級車と言っても全く問題ない上品な乗り味に仕上がっています。しかもいきなりトヨタ車のような乗り味に趣旨変えしたわけでなく、あくまでも今までの日産車の延長線上で進化した柔らかな乗り味で、この乗り心地だけでもティアナという車に存在感が生まれていると思いま す。
サイズは、FF高級車として望むか望まないかは別として大きく威張りの利くモノ。その上にこの高級感あふれる乗り心地。にも関わらずベースグレー ドの価格は250万円からというのにも驚きです。昨今はホンダを筆頭に最高級グレードとベースグレードに大きな差別化をはかる車が多いですが、ティアナはベースグレードでも、内外装仕様に格落ち感はほとんどありません。
ハンドルがウレタンになり、本革/パワーシートが選べないこと程度、オーディオは元々レス仕様ですので、ディーラーお仕着せではなく量販店で好みのモノを入れればOKです。少なくとも見た目の印象にはベースグレードでも最上級グレードでも差はありません。町内会のゴルフコンペにじいさん仲間と連れだっても、フランス車風の快適なシートもあり「良い車買ったなぁ。高いんだろ?」と言われるでしょう(笑)。
エンジンは今回から2.5L4気筒1本に絞られましたが、その静粛性は4気筒にしてはなかなかのモノで、回さず粛々と走っているだけでは4気筒と気づかない人もいるかも知れません。それでいて4気筒ならではの出足の良さは有るので、ボディサイズはともかく街中で運転しやすい車になっています。
と、車の出来自体に関しては、海外市場のお仕着せが良い方向に向いていましたが、内装を中心にティアナとしては不満な点も当然有ります。まず外板色と内装色の組み合わせが限定されること。それ自体はどのメーカーでもよく有ることなのですが、不思議なのは、濃い色に合いそうなベージュ内装の組み合わせが、紺はともかく白と銀で有ると言うこと。黒やワインレッドこそベージュ内装が映えると思うのですが。
乗り心地には充分高級感がありますが、内装質感自体はそれなりの仕上がりで、目の肥えた人が見ると物足りないレベルだと思います。250万円のベースグレードでしたらこれでも十分だと思いますが、320万円の最上級グレード(ナビつけて350万オーバー)ですと厳しいかも知れません。価格帯が全く違うので仕方有りませんが、ショールームでスカイラインと隣り合って並んでいると、スカイラインの本物感に対して、メッキもパネルもすべてイミテーショ ンに過ぎないと痛感させられます。
何よりティアナと言えば初代の「モダンリビング」の印象が強く、質感としては追いついてない部分はあったにしても、そのデザイン性は大きな魅力だったはずです。ところが前記したように3代目はティアナとして一から開発されたわけではなく、北米日産のアルティマとほぼ同じ車です。後付けで助手席オットマンだけは準備されていますが、内装デザインはどこかで見たことのあるありふれたものに過ぎません。
またお勧めできる点としてベースグレード250万円を持てはやしてきましたが、決定的な欠点として、このご時世にベースグレードでは自動ブレーキが設定出来ません。またティアナ全体としてもアイドリングストップやエコモードが無く、同クラスのカムリがハイブリッド、アテンザがディーゼルと、低燃費車なのに対して、旧来のアッパーミドルカーに過ぎないのも物足りない点です。
前記したとおりに4気筒エンジンの出来は悪くないのですが、今まではV6がメインでしたので、乗り換えを考えているユーザーにとっては格落ち感を感じさせるかも知れません。北米には3.5LV6の設定が有るのですが、縮小傾向の日本でのセダン需要では未導入も仕方ないことかもしれません。
と、グローバルモデルで有ることによる良い点悪い点を記してきましたが、少し違った視点でこのティアナをまとめます。バブル前後辺りから、日本人はそれまで憧れの対象であったアメ車を時代遅れのモノとして見るようになりました。新しい憧れの対象は欧州車。技術が上がり車の評価を性能やスペックで語るようになった時、アウトバーン速度無制限に応えられる性能の、欧州車に追いつけ追い越せが日本車の目標となりました。
その結果、日本の道路事情で考えると過剰な性能を持つ車が増え、日本国内で果たして本当に快適なのか?と思うような高速仕様ガチガチな乗り味の車ばかりになってしまいました。ところがそんな時代に意外なほど日本に適した日本車がありました。トヨタのカムリやアバロンです(厳密に言うとアメリカ生産の輸入車なのですけど)。
アメリカ人がそこそこ快適に過ごせるガバガバなサイズ。速度制限も厳しくて100キロ前後が一番快適な乗り心地。そして下駄のように使える気安さ。性能スペックとは違う、感性に働きかける心地よさが、北米生産のカムリにはあったのです。
北米では今でもそんなガバガバな下駄車を作り続け、ベストセラーカーとして売りまくっているのですが、日本ではこのサイズは高級車のサイズ。となると下駄車の質感では、日本人に受け入れられません。モデルチェンジ毎に散々粘ったトヨタも遂にはカムリをハイブリット専用車とせざるを得ず、結果300万から400万円の高価格車になってしまいました。
そうしてガバガバで快適な下駄車は日本から無くなってしまっていたのですが、このティアナ。日産が目指した方向とは全く違うのでしょうけど、見事にガバガバで快適な日本車カテゴリーを復活させています(笑)。そう言う意味で最初から記しているように推奨グレードはベースクレード一択。250万円で快適な乗り心地、それでいてサイズなりの最低限の高級感も有り、実に旧来の価値観での良い車です。
安全装備は物足りないしエコ濃度も低め。でも車本来の出来としては快適至極。なんでこんな車出したんだ?ティアナ、日産終わった。そう思っていましたが、乗ってみると本当真っ当良い車です。日産自体売る気がないので、なかなか試乗するチャンスもないでしょうけど、本当一度乗ってみてください。日産の、日本車の実力底力を感じます。(2014年2月発表)
http://carview.yahoo.co.jp/ncar/catalog/nissan/teana/F003/