日産シルフィ |
そんなシルフィですが、先代モデルは先々代の1.5Lクラスを無理矢理Cセグメントにしたのとは違い、本来の5ナンバー2.0LサイズCセグメント車として実に良くできた車でした(実はプラットフォームはBセグだったんですが)。室内空間はライバル車のプレミオアリオンより確実に広く、内装デザインも演歌調で古くさいプレミオアリオンに対して、ラウンドしたシートデザインなども含めてどこか欧州車風で、30〜40代の女性が乗るととてもおしゃれに見える車でした。
実際乗ってみると欧州車風のしなやかな乗り心地ではなく、日産らしい足回りの感触が伝わってくる男らしい乗り心地なのがちょっと残念でしたが、バブル期のブルーバードやプリメーラから乗り換えても、またローレルやセフィーロから乗り換えても失望するようなことは無い、隠れた名車だったと思います。
ところが、5ナンバーセダンに乗るような地方のお父さんには、プレミオアリオンの押し出しの効いたフロントマスクや、解りやすい演歌調の内装、ゴムゴムしいやわらかな乗り心地こそ正解で、欧州風でちょっとお洒落な価値感がわかる都会のマダムは、そのものずばり、素直に欧州車を買うわけで、日産が狙ったほどのヒットとはなりませんでした。
結果シルフィとしての3代目は日本仕様オリジナルでの(中国にも供給されてましたが)開発を断念し、日中シルフィ、北米セントラ、豪州パルサーの世界戦略車として開発されました。世界戦略車となると懸念されるのがボディサイズ。国内だけで台数を捌ききれなくなったセダンが、世界サイズに引っ張られてボディを拡大するのはレガシィやアテンザを見ても明かです。
シルフィもやはりと言うか、5ナンバーサイズははみ出してしまいましたが、1800ミリクラスの全幅だったセントラのモデルチェンジも兼ねてる割には、なんとか踏みとどまって1760ミリになっています。実際に運転してみれば、全幅より問題なのはドアミラー間の寸法なので、1700ミリオーバー=運転しにくいと言うわけではないのですが、やはりイメージとして3ナンバーと言うのは、地方での売り上げに響いてくると思います。
となると問題なのは、前から話している現状の日産のラインナップです。今まで、ノート/ティーダ/ラティオ/シルフィとあった、5ナンパーでそこそこ質感の高いモデルが、今回のモデルチェンジで、ティーダ消滅(日本仕様のみ)、ラティオ廉価版セダンへの変更、シルフィ3ナンバーと、実質ノート一択になってしまいました。しかもノートはクラスとしては、マーチの上級サイズです。ほどよい大きさで、満足感のある車が、日産からは無くなってしまってるわけです。
それに対してトヨタは、プレミオアリオン健在ですし、ヴィッツベースになったとはいえ、ラティオに比べれば遥かに質感のあるカローラが有ります。5ナンバーサイズのセダンを選ぶお父さんは、トヨタ以外に買う車が無くなってしまいました。シルフィが大型化するのは仕方ないにしても、やはり本来の上質なコンパクトとしてのティーダラティオは、残しておくべきだったと思います。
さて、では5ナンバーの制約が無くなったシルフィは、さぞ良い車になっているだろうと期待して乗ってみると、これが・・・今度は世界戦略車のとしての制約に捉えられてしまいました。あれほど広大だった室内スペースも、実寸では拡大されているのかも知れませんが(すいません比べてません)、実感としてはそれほどでもないイメージ。シートデザインやインパネ周りも、先代では独自性が感じられて、内装写真を見るだけで「シルフィ」と判別ついたモノが、どこにでもある凡庸なデザインになってしまってます。
特に雑誌などでは、木目調パネルが奢られた上級グレードのG主体で紹介されているため気づきにくいですが、その他のグレードはシルバー塗装の安っぽい仕上がりで、相変わらずのブラック内装の質感の低さと合わせてガッカリです。事実上、唯一シルフィらしい車格感のあるGグレードは、本体価格が約240万円。1.8Lで、アイドリングストップも無し、最近流行りの自動ブレーキなども無い、ただの1.8L車が240万円。全く理解できない価格設定です。
外観デザインは、シルフィらしさを残しつつ3ナンバーでデザイン代に余裕が出来たのか、流れるようなラインがキレイな車だと思います。少なくともラティオの見た瞬間にがっかりするような酷さは有りません。ただこれも世界戦略車として、どこでも受け入れられるデザインにしたせいか、これだ!と言う特徴の無い目立たないデザインになってしまったかも知れません。街中で新型シルフィが走っていても、目に止まる人は少ないのではないでしょうか?同じ世界戦略車で、元は同じクラスだったアテンザとは大違いです。
総じて3代目シルフィ。どうでも良い車に成り下がってます。日産党で日産車だけ乗り継いできたお父さんでも、価格と装備、仕上がりを見ると厳しいと思います。今の日産車は確実に、駄目なターンに入っています。ゴーンが社長になって最初に送り出した世代は、どれもこれも非常に危機感が有って良い車が多かったです。対して、その第一世代がモデルチェンジを迎えた今、出てくるモデル出てくるモデル、先代を凌ぐような良い車は有りません。今どうしても車を買わなければ行けないのであれば他社に。逆にどうしても日産車に乗りたければ、5.6年待って次の世代に掛けるのが正解だと思います。
残念ながら今の日産を象徴する車がシルフィだと思います。(2012.12月発表)
http://ncar.carview.yahoo.co.jp/ncar/catalog/nissan/sylphy/F001/